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埼玉弁護士会所属の弁護士です。

遺産管理人

成年後見人として,被後見人の方がお亡くなりになった場合は,成年後見人としての職務が終了するため,法定相続人に財産を引き継ぐこととなります。

引継は,可能な限り2ヶ月以内に行うこととなります。

(後見の計算)

民法 第八百七十条 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

しかし,法定相続人間で意見の対立が激しい場合には,相続人代表者を選ぶことができず,引継ぎができないことがあります。

確かに,成年後見人には被後見人が亡くなった後に財産を管理する権限がありますが,相当長期間にわたり管理できるか否かは争いがあります。

成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
民法 第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

そのため,相続人間の争いが激しい場合には,相続人のひとりに遺産分割調停を申し立ててもらい,審判前の保全処分として,遺産管理人を選任し,当該遺産管理人に財産を引き継ぐという手続きをとることがあります。

 
(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
家事事件手続法 第二百条 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第三項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
3 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
4 第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
 

この家事事件手続法第200条1項により選任されたものを,遺産管理人と呼ぶようです。

遺産管理人は,相続人の法定代理人と考えられています。

そして,遺産管理人の地位は不在者財産管理人の地位と同様とされているため,民法103条に定める保存・管理行為をする権限が認められています。

 

以前,この遺産管理人に選任され,非常に苦労したので,記事を残しておこうと思います。

 

 

 

夏の法教育イベント

毎年8月の夏休みの期間は多数の弁護士会主催のイベントが開催されます。

今回は,今年関わらせていただいたイベントをご紹介します。

 

【8月2日 リアル体験教室「弁護士になりたい」】

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0307/mienaichikara/index.html

4年前から企画担当として参加しています。

今年は,初めて午前・午後の2部構成で開催し,両企画とも多数の応募をいただきました。

当該イベントは,職業体験イベントということで,小学生のみなさんに弁護士の仕事を少しでも伝えられるように毎年試行錯誤しながら企画しています。

アンケートでは,「楽しかった!」「大変満足!」という温かい言葉をいただき,励みになりました。

来年もよい企画となるよう努力したいです。

 

【8月3日 模擬裁判選手権大会 関東大会】

https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2019/190803_2.html

スタッフとしてお手伝いさせていただきました。

今年も高校生たちの白熱した議論が繰り広げられていました。

埼玉からは初出場の高校が参加し,奮闘していました。

 

【8月20日・21日 夏休み子どもワークショップ「目指せ!最強の少年弁護団~弁護士と学ぶ交渉の達人への道~」】

http://www2.dokkyo.ac.jp/~kodomolegal/

獨協大学地域と子どもリーガルサービスセンター主催のイベントに講師として参加しました。

今年は,2日連続で交渉をテーマに取り組みました。

子供たちは,依頼者から依頼を受けた弁護士として,交渉を取り組みました。

最初は「話し合いってなに?」ということを考える段階から始まったのですが,最終日は全員が積極的に意見を出し合い,戦略を練るなど,素晴らしい弁護団に成長していました。

私は2日目の企画を担当しており,少し難しい事案を作成したのですが,とても盛り上がっていて安心しました。

このイベントでは,毎年違うテーマ,違う内容で行っているので,来年の企画もどのようなものにしようか今から検討中です。

 

このようなイベントで,学生のみなさんと多数の弁護士が関わることで,弁護士になりたいという夢を後押ししたり,弁護士って意外と話しやすいなと思ってもらうことができたら有難いと思っています。

「子どもにとって望ましい話し合いとなるために」

裁判所が,「子どもにとって望ましい話し合いとなるために」というタイトルの動画を公開しました。

http://www.courts.go.jp/video/hanashiai_video/index_woc.html

 

・年齢別の子どもが両親の争いから受ける影響

・子供を両親の争いに巻き込まないためにすべきこと

についてわかりやすく解説されています。

 

今後この動画を調停の待合室でも流すそうです。

 

離婚に向かって進んでいく過程では,たくさんの不満や不安で頭がいっぱいになると思います。

しかし,デリケートな問題ゆえ,誰にも相談できずひとりで悩んでいる方も多いと思います。

 

このような動画で情報を得ることで,心の整理ができ,心が少しでも軽くなることを願っています。

また弁護士も,知識を身に付け,よりよいアドバイスができるように研鑽を積まなければならないと感じています。

住宅ローン負担と婚姻費用②

住宅ローンと婚姻費用の関係②

 

【住宅ローンの支払いのある住居に権利者が居住する場合】

① 住宅ローンの負担:義務者,義務者:別居

 二重負担のケース。

 義務者の事情をなども踏まえ,今後も義務者が支払を継続する場合には考慮する場合がある。

 義務者が有責であることが明らかな場合には,考慮されない場合もある。

② 住宅ローンの負担:権利者,義務者:別居

 住宅ローンの負担は考慮しない。

③ 住宅ローンの負担:義務者・権利者,義務者:別居

 婚姻費用増額の理由にはならない。

 

【双方とも居住していない場合】

 考慮しない。

 

【住居処分後,ローンが残った場合】

 原則的には考慮しない。

 

(参照:ケース研究312号 86頁~139頁) 

 

こども六法

1年ほど前にクラウドファンディングで支援した「こども六法」が届きました。

https://www.koubundou.co.jp/book/b451093.html

 

支援のきっかけは,昨年の法と教育学会で「こども六法」の作者である山崎聡一郎さんの発表を聞いたことでした。

山崎さんは,小学生のころいじめられた経験をもとにいじめ問題を解決したいという想いから「こども六法」の出版を目指したそうです。

クラウドファンディングのトップページには,”いじめという犯罪をこども六法でなくしたい”という言葉が書かれていました。

いじめをなくすことは本当に難しい問題ですが,少しでも力になればと思い支援をしました。

 

「こども六法」は漢字にルビがふられており,またイラストもたくさん掲載されていますので,内容は難しいですが,小学生でも手に取りやすい内容になっていました。

これから出版とのことですので,良い影響が広がることを願っています。

 

住宅ローン負担と婚姻費用①

住宅ローンと婚姻費用との関係について,よくご質問を受けるので少し説明をしたいと思います。

 

基本的には,住宅ローンの負担と婚姻費用は別問題と考えます。

しかし,住宅ローンの支払いについて考慮しなければ不公平と言えるような一定の場合には,住宅ローンの負担が婚姻費用に考慮されることがあります。

 

具体的には,以下のように考慮されることが多いようです。

・義務者…婚姻費用を支払う義務のある人

・権利者…婚姻費用の支払いを受ける権利のある人

 

【住宅ローンの支払いのある住居に義務者が居住する場合】

① 住宅ローンの負担:義務者,権利者:別居

 住宅ローンの負担は考慮しない。

② 住宅ローンの負担:権利者,権利者:別居

 住宅ローンの負担は考慮する。

 権利者の負担において,義務者が住居費用の支出を免れている関係にあるので,義務者の住居費用として相当な金額は婚姻費用算定において考慮する必要がある。

③ 住宅ローンの負担:義務者・権利者,権利者:別居

 義務者の支払いにおいては考慮不要。

 権利者の支払いの関係では,義務者が一部支払っていることから,必ずしも考慮されるとは限らない。

(参照:ケース研究312号 86頁~139頁) 

 

子の引渡しの強制執行

監護者指定・子の引渡しの審判などで申立てが認められた場合には,強制執行手続きを行うことができます。

 

しかし,現在は子の同居親の立会いのもと任意の引渡しが必要とされています。

そのため,同居親が執行官などの説得に応じない場合には,強制執行が失敗することがあります。

過去の経験では,説得に応じて任意の引渡しが成功した案件もありますが,同居親がインターホン越しには対応するものの玄関ドアを全くあけず2回にわたり強制執行を試みましたが結局失敗した案件もありました。

 

この問題については,現在民事執行法の改正により,引き渡しに応じない親に制裁金などを科して促しても応じないとみられる場合には一定期間を待たずに連れ戻しを認めたり,引き渡しを命じられた親が立ち会わなくても申し立てた親がいれば引渡しを認めるという方向で検討されているそうです。